B:太古なる母竜 パチャママ
「パチャママ」の名は、古代ロンカの伝承にも登場するそうだ。ロンカ神話の豊穣の女神、イキス・アンパの現世での姿として、古来この地に住まい、森林に寄り添ってきた巨竜だという。女神の化身にしては、いかめしい姿だがな。その身体を土に還すことで、地は満たされ豊穣に至るとされ、ロンカの戦士がこぞって挑んだと語られている。パチャママを屠った戦士には、永久の栄光が与えられたんだと。伝承に倣って、あんたも挑戦してみないか?
~ナッツ・クランの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
その巨大な古龍は頭を下げ、鼻先に生えた一際長く太い角の先端を相方に向け、砂煙を挙げて突進した。
相方はギリギリのところで左手の盾で角をいなして斬りかかろうとしたが突進の威力が強すぎて体ごと弾き飛ばされた。
古龍は突進の勢いを殺しきれず、高さ10m直径50cmはあろうかという高木の幹に頭からぶつかった。だがダメージを受けたのは木の方でバキバキっと音を立てて根元から簡単に折れ、轟音を立てて倒れた。
「あんなん無理!」
ごろごろ転がって受け身を取った相方がそのまま立ち上がるとあたしの方に走ってくる。
「パチャママは森の長老と呼ばれてて古代ロンカの伝承にも登場する古龍で豊穣の女神の化身っすよ!」
ガイドは大きな岩の陰から叫んだ。
「その情報今いる?」
あたしは古龍から目を離さずに叫んだ。一発叩いてやりたいところだが突進で不意打ちされたら命に係わる。倒れた木の根元でパチャママはゆっくり方向転換しするとこっちを向いてまた頭を下げ、尖った角の先端を見せた。
「パチャママを屠った戦士には、永久の栄光が与えられるんです!頑張って~~!」
ガイドは遠くから他人事な声援を送った。どうやら黙る気はないらしい。
「パチャママよりあいつ黙らせようか」
相方が物騒なことを言いだした。
「そもそも、なんで豊穣の女神がこんなアグレッシブなのよ」
話しの矛先を変えようとあたしは相方に向かって言った。
「それはですね~~~!」
何故かガイドが答える。
「あんた、どんだけ地獄耳なのよっ」
思わず突っ込んだがそれと同時にパチャママは走り出した。
「あわわわっ」
あたしと相方は別々の方向に走って逃げた。パチャママはあたしと相方の間を真っすぐ駆け抜けていくと、また高木を一本なぎ倒した。
「パチャママは挑んでくる者を倒してその死体を森の養分にするんです。それに自分がやられたらあのパチャママの巨体が森の養分になるんです!だから豊穣の女神~~~!」
「だから!その情報をこの状況でどう生かせってのよ!ってか、めちゃめちゃ物騒な女神じゃない!」
あたしは叫んで答えた。
「ええ~~~?なんです~~~?聞こえな~~~い!」
覚えてろよ、うざガイドめ。終わったらあんたを屠って森の養分にしてやる。
「豊穣の女神じゃなくてほぼ死神やん。森の養分になんかなってたまるか!」
相方は構えの姿勢をとる。パチャママは再び相方に向かって突進を始めた。あたしは殆ど声に出さず素早く短い詠唱をすると杖を振った。バキバキともガチガチともつかない音を立ててパチャママの進行方向に巨大な氷柱が地面から生えた。パチャママがその氷柱に頭から突っ込むと一瞬間があって氷柱は一気に天辺までひびが入り、砕け散った。
「パチャママ、止まらな~~~い!!」
いつから、誰に向かって実況を始めたのか知らないがコロシアムのMCのようなガイドの声が聞こえる。
「いいのよ!止めるつもりなんかない!」
あたしは相方にアイコンタクトする。相方はそれにウインクで答えた。氷柱を叩き壊したパチャママだったが氷柱にぶつかったことで突進の勢いは半分以上削がれている。
「このスピードなら外さない!」
相方はジッとパチャママを待ち構えると今にもぶつかりそうなところで角の付け根に向けて剣を突き出した。瞬時の出来事だ。剣に少し体重をかけてやる。そうすることで鋭く尖った剣の切っ先に衝突の力が一点集中する。すると剣の先端は鎧の様なパチャママの外皮を突き破る。その手ごたえを感じた瞬間に相方は横っ飛びでパチャママを躱した。パチャママは眉間に剣を刺したまま頭から木にぶつかったかと思うと地響きのような音を立てて横倒しに倒れた。眉間の剣はパチャママ自身の突進の力で柄までしっかり押し込まれていた。